人形佐七捕物帳001
人形佐七、めでたくデビュー
「羽子板娘」（横溝正史）
（「完本 人形佐七捕物帳一」）
春陽堂書店
「羽子板娘」（横溝正史）
（「羽子板娘」）角川文庫
小料理屋の娘･お蝶が
何者かに殺される。
お蝶は江戸三小町の一人として
羽子板に描かれるほどの
美しい娘だった。
ところが三人のうち、
お蓮もまたすでに
事故死していた。
そして今また、
もう一人のお組の
行方がわからなくなる…。
お蓮の初七日の日に投げ込まれたのは、
首を切られたお蓮の羽子板。
そしてお蝶の死体のそばにも
同様の羽子板が残されていたのです。
三小町が一人ずつ死亡し、
殺害を暗示した羽子板が発見される。
つまり最後の一人も
同様に殺害される可能性が高いのです。
いかにも横溝正史らしい
おどろおどろしい設定です。
【捕物帳〇〇一｢羽子板娘｣】
お源
…小料理屋辰源のおかみ
お蝶
…お源の娘。器量よし。
羽子板娘となった江戸三小町の一人。
殺害される。
紋三郎
…大工の若者。お蝶と逢い引き。
お市…辰源の女中頭。
お組
…神田お玉が池の質屋･紅屋の娘。
江戸三小町の一人。行方不明となる。
お園…お組の継母。
お葉…お組の伯母。
清兵衛…紅屋の番頭。
お蓮
…深川境内の水茶屋の娘。
江戸三小町の一人。事故死する。
山の井数馬
…剣道指南役。鬼瓦の紋所を持つ。
吉兵衛…御用聞き。佐七の親代わり。
お千代…市兵衛の女房。
お仙…佐七の母親。
佐七
…御用聞き。数えで二十二。
色白の好男子。人形佐七と呼ばれる。
本作品の読みどころ①
人形佐七デビュー
本作品は人形佐七捕物帳第一話であり、
佐七のデビュー作品なのです。
佐七は名うての岡っ引き、
江戸のいわゆる名探偵なのですが、
第一話はもちろん駆け出しです。
でも、描かれ方は今ひとつです。
「男振りがいいところから、
とかく身が持てず、
人形佐七と娘たちから
ワイワイいわれるかわりに、
御用のほうは
おるすになる」のですから、
困ったものです。
それでも二十二歳になったのを機に、
頭脳の明晰さを発揮していくのです。
本作品の読みどころ②
羽子板娘連続殺人事件
羽子板に描かれた美女三人が、
次々に殺される。
現代ものにでも応用可能な設定です。
実は、本作品発表の翌年(昭和14年)、
由利･三津木シリーズの
｢銀色の舞踏靴｣に応用しています。
そのねらいとするところは
想像がついてしまうのですが、
江戸情緒を生かして
事件をよりミステリアスにする試みが
味わいどころといえるでしょう。
なお、｢連続殺人事件｣と
読み手に思わせておいて、
実はそうでないというパターンも、
横溝ならではの凝った筋書きです。
本作品の読みどころ③
時代物ならではの推理
トリックは
被害者をおびき寄せた鏡の位置から、
下手人の立ち位置を特定したくらいで、
推理らしい推理はありません。
それどころか下手人特定の決め手は
ほとんど直感としか
いいようのないものなのです。
時代物ならではの
｢緩い｣推理といえなくもありません。
でもそこがいいのです。
現代の犯罪捜査では
物証が決め手となって
推理の余地が狭まります。
物証が乏しい分だけ、
佐七の推理(というよりも想像力)が
大きく引き立つのです。
時局が厳しくなり、
探偵小説が書きにくくなった折に、
横溝正史が軸足を一時的に移した
人形佐七捕物帳。
面白さ満点です。
※春陽堂書店より、
｢完本 人形佐七捕物帳｣が
全10巻の予定で
刊行が開始されました。
最新の研究により、
全180篇と確定された全作品が
全集化されるのは
喜ばしいことです。同じように
金田一ものをはじめとする
探偵小説全集の登場を
願っています。
（2020.2.17）
〔追記〕
こちらもご覧下さい。
ぜひチャンネル登録をお願いいたします！
（2023.4.9）
※「完本 人形佐七捕物帳一」
収録作品一覧
羽子板娘
謎坊主
歎きの遊女
山雀供養
山形屋騒動
非人の仇討
三本の矢
犬娘
幽霊山伏
屠蘇機嫌女夫捕物
仮面の若殿
座頭の鈴
花見の仮面
音羽の猫
二枚短冊
離魂病
名月一夜狂言
螢屋敷
黒蝶呪縛
稚児地蔵
「羽子板娘」角川文庫 収録作品一覧
羽子板娘
恩愛の凧
浮世絵師
石見銀山
吉様まいる
水芸三姉妹
色八卦
うかれ坊主
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